【 生死とクローン 】
『御墓っていうのは、死んだ人の為に立てるわけじゃないのよ。』
「そういう話は大柄先生からも聞きました。生きている人の為、でしょう。」
『どのくらい聞いた?』
「いや、生きいる人の気持ちの為、としか。」
『どうして、生きている人の気持ちの為なのか、分かる?』
「・・・分かりません。考えたこともないんで。」
『もし、誰かが亡くなった後、その人に何かしらの思いを抱いても、
その向かう先が明確でないと、どこに向けていいか分からなくなるのよ。』
「向かう先、ですか。
ヴィクスさんは───・・・ いや、なんでもありません。」
『ふふ。 聞きたい事は分かるわ。
想像を絶する事くらい、想像するに難くないのね。
活動的な不老不死の人間が、どれだけの人の死を想って来たかを。』
「一つ、聞いていいですか?」
『残念ながら、私は冥界だとか、地獄だとか、あの世だとかに行ったり、交信したりすることはできないわ。
無理矢理、交信しようとすれば私の精神は崩壊しかねないし、行こうとすれば私の身体は消滅しうる。
そんなリスクを背負ってまで、行きたいも、交信したいとも思わない。』
「・・・そうですか。」
『生の神に会った事はあるけど、それもただの掃除係で、あの世そのものに立ち入ったことはないそうよ。
それこそ、存在しない、と考えられるくらい。
まあ、私はそう考えてそれ以上の思考を制止しないと、無意識に入り込みそうってこともあるけど。』
「大変なんですね。」
『もし全てを行える力があったとしても、それに耐えうる身体がなければ、できない事と一緒。』
「では、人を生きかえそうと想ったことも、ないんですか。」
『あるし、擬似的にできるわ。私はね、人物を作り出すこともできるよの。
ただ、とてもよく似た別人、って言ってしまうこともできるけどね。』
「・・・魔法で、細胞の一つ一つまで再現するってことですか・・・。」
『例えば、テルナ君のその体を完全にコピーした複製、クローンを作っても、その有している意識は違うでしょ?』
「確かに違いますが・・・。」
『意識を統括するものが肉体が滅んでも劣化しないもので存在するのであれば、
それを使えばいいけど、生憎、そんな存在を私は確認していない。
もしあなたが死んで、別の体を作り生き返したとしても、生前の意識は有していない。
そういう話よ。』
「つまり、自分の肉体を新たに作り、自分という人間をもう一人作ったとしても、別人でしかない、と。」
『他者から見れば、同一人物かもしれないけど、自身の持っている意識を引き継いでいるわけではない。
想像してみて。 目の前で自分と全く同じ人間が作られた後、自分が死ぬという状態を。』
「・・・で、なんで自分が死ぬんですか。」
『新たに脳を作り、その脳と自分の脳とを繋げて意識を共有させ、新しい脳を作る。
そういうことをしたとしても、新しい自分が、本当に自分からの命の延長線上なのか、という疑問。
だから私は、とてもよく似た別人と、言ってしまえると言ったのよ。』
「本当のその人には、なりえないから、生きかえさないんですね。」
『だから、私にも墓というのは必要なのよ。
勿論、理性では分かっているんだけどね。』
「・・・ヴィクスさんも、人なんですね。」
『心外ね、その言い方。』
「笑いながら言われても・・・」
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